【開催報告】コーヒーのアジア最大規模の展示会SCAJセミナー 2024「サステナビリティと品質の追求 ~高品質なコーヒーの調達危機への対応~」(2024/10/11)
2024年10月に開催されたスペシャルティコーヒー展示会SCAJ2024において、フェアトレード・ジャパンは、 来日生産者とともにセミナーを開催しました。
気候変動の影響により、2050年までにアラビカ種の栽培適地が半減するといわれた「コーヒー2050年問題」。現に、生産地ではすでに深刻な影響が発生しており、対策は急務です。いま産地では何が起こっているのか、品質への影響はどうなっていくのか、ニカラグアとメキシコの二つの生産者組合から代表をお招きし、環境や人権に関わる社会課題解決と品質への追及を同時に進める先進的な取組みを紹介。また、フェアトレード認証コーヒーの魅力・品質をお伝えするため、品評会で高い評価を得たブラジルとメキシコのフェアトレード認証コーヒーを試飲提供し、セミナー参加者に実際に味わっていただきました。
参加者からは、「リアリティのある生産者の話が印象的だった」「生産者たちがどのような思いでコーヒーを生産しているか知ることができてよかった」「フェアトレードによるインパクト・変化について生産者から直接聞けてよかった」といったコメントをいただき、セミナー終了後も、登壇した生産者たちと参加者が対話する場面も見られ、産地と市場との貴重な交流の機会となりました。
【開催概要】
・タイトル:サステナビリティと品質の追求 ~高品質なコーヒーの調達危機への対応~
・開催日時:2024年10月11日(金) 11:00~12:30
・場所:東京ビッグサイト セミナールームF(西4商談室4)
・主催:認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン
【登壇者】
・潮崎真惟子(認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン 事務局長)
・パウロ・フェレイラ・ジュニア(中南米フェアトレード生産者ネットワーク(CLAC)、コマーシャルマネージャー)
・メルリン・プレザ・ラモス(PRODECOOP協同組合 ゼネラルマネージャー)
・シルビア・エレーラ(San Fernando協同組合 ゼネラルマネージャー)
オープニング
潮崎 真惟子(認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン 事務局長) 品質をどう上げていくかという点について、特にここ10年ほどフェアトレードで注力してきました。フェアトレード・プレミアムの使い道は現地の生産者さんが自分たちで決めることができますが、10年ほど前にコーヒーに特化した新しい基準として、プレミアムの25%は品質の向上に使うことを基準化しました。コーヒー以外の産品では使い道は完全に自由になっているので、その意味ではコーヒーは特に品質を重視していると言うことができます。 コーヒーそのものの品質は価格と強く関連し、生産者の収入に直結することから、貧困解決のためにも品質は重要です。サステナビリティと品質を両輪で回していくことが、実際にビジネスとしても、持続可能に社会課題解決をしていく上でも重要です。

フェアトレード中南米からの発表
中南米フェアトレード生産者ネットワーク(CLAC)コマーシャルマネージャー パウロ・フェレイラ・ジュニア 私はコーヒーの生産者の家に生まれました。生まれてこの方コーヒーに関わっており、現在はCLACでコマーシャルマネージャーをしています。CLACというのは、ラテンアメリカ・カリブ地域のフェアトレード認証生産者組織940以上をつなぐネットワーク組織です。それらフェアトレード認証生産者組織に所属する農家・労働者は、ラテンアメリカ、及びカリブ地域で30万人以上に上ります。 世界全体のフェアトレード認証コーヒーのうち、実に85%が中南米で生産されており、コロンビア、ペルー、ホンジュラスが主要生産国となっています。生産量は2022年から2024年の3年間で変異があり、2024 年は10%減少しています。コーヒーの実のつき方にはサイクルがあり、2年ごとに生産量が変わる性質があるのですが、それに加えて気候変動も大きく影響しています。 我々が市場を広げるツールとして力をいれているのが、コーヒーのコンペティション(品評会)「ゴールデンカップ(Golden Cup)」です。ゴールデンカップというのはフェアトレード認証を受けたスペシャルティコーヒーだけを集めて審査するものです。フェアトレード認証コーヒーをさまざまな市場にプロモーションし、市場の中でのポジションを高めるために行っています。また、こうした品評会を行うことで、コーヒーを栽培するだけでなく、栽培後のプロセスにも注目し品質を向上していくことにもつながります。 品評会に出品されるコーヒーの品質を審査する活動と同時に、品質を高めるためのトレーニングを行っています。品質そのものの理解や、カッピング技術などに関するトレーニングです。今年度は5カ国で品質に関する7つのトレーニングを行い、92の生産者組織に参加いただきました。トレーニングを通じ合計102人の生産者と、小規模生産者組合で活動する農業専門家などが収穫後の処理の部分でトレーニングを受けました。特に若い世代の生産者70人にカッピング、バリスタのトレーニングを受けてもらっています。 中南米で生産されるフェアトレード認証コーヒーのうち、フェアトレード価格で取引されたのは、生産量の33%にとどまっています。つまり、フェアトレード認証コーヒーは供給力もあり、市場はまだまだ開拓できる余地が残されているという読み方ができます。

産地メキシコからの発表
San Fernando協同組合 ゼネラルマネージャー シルビア・エレーラ 私はSan Fernandoという協同組合に所属しています。生産者であり、カッパーであり、セールス活動も行っています。 San Fernando は1984 年に設立した、10 の自治体にまたがるコミュニティです。現在組合には817人が参加し、そのうちの257人が女性で、165人が先住民のルーツを持ちます。協同組合としては、生産者が作るコーヒー、栽培などについて、いかにバランスをとって共通の目標に落とし込むかというところをサポートしています。 生産への投資について、15年来コーヒーの木を植え替えしていこうという試みがあり、特に早熟な種類を導入しようとしています。国別の生産量内訳でも、メキシコの生産性が低いことがわかり、この導入が重要視されています。また、品質面にも注目しており、17の品種について実証実験を行っています。それぞれ植える土地への適応性はあるか、生産性はどうか、カップにしたときにどういう状態になるのかを現在分析中です。コーヒーの木についての取り組みや品質の他にも、生産者、そして関係者のトレーニングを行っています。さらに収穫後の処理の部分を改善したことで、結果的に品質が上がり、カップにしたときの状態も改善しています。 品質に対して投資をした結果、2021 年のゴールデンカップで1位、Cup of Excellence(COE) 2 位、2022 年COE 4位、ゴールデンカップ1位という成果が出ています。 また、良いことばかりではなく、若い世代がコーヒー生産に関心を持たないという課題もあります。しかし、スペシャルティコーヒーに取り組むことで有望な市場を目指すこと、取り組むことで若い人に面白いと感じてもらえるようになってきました。 また、気候変動という問題、それに伴う食の主権、収入源の多様化といった課題や、市場の価格が変動する問題もあります。生産者の皆さんには社会経済の起業家精神を持ってもらうことを目指し、意識的にしっかりと取り組む必要があると考えています。

産地ニカラグアからの発表
PRODECOOP協同組合 ゼネラルマネージャー メルリン・プレザ・ラモス PRODECOOPは30年以上生産者と歩んできた、フェアトレードの取り組みを初期から続けているグループです。 組合は1993 年に設立しました。場所はニカラグア北部です。参加の小規模組合は38 あり、会員3412 世帯、農家数1万6 千人、そのうちの3 割が女性です。協同組合で雇用しているスタッフが320 人、コミュニティの数は100 個以上もあります。 私どもは発足から質に注目してきました。質というのは品物そのものの質だけでなく、サービスの質、環境の質、働いている人材とその人たちの生活の質をも加えた統合的な質です。農家の生活の質の面からもオーガニックやフェアトレードの認証が重要なツールになっています。 インフラと生産能力、処理能力としては、組合所有の乾燥設備が一箇所あり、1袋60kg、7万5千袋以上(4,500トン以上)の処理が可能です。収集場は5 箇所あり、果肉除去など共同で行う場所が1箇所あります。特に若い人を中心とした人材育成、アラビカQグレーダー、バリスタやカッパーのトレーニングを行うところもあります。さまざまなトレーニングは、ニカラグアの官民で作るコーヒーの国家審議会と共同で、CLAC の力も借りて行っています。トレーサビリティを確立するために、収集場で豆を受け取ったところから輸出するまで追うようにしています。実際の生産量としては平均60kgの袋で7万袋年間生産され、その8割がフェアトレード向けです。

一生懸命インフラ整備や品質向上を行っても、ここ数年は栽培自体が気候変動の打撃を受けています。影響として農業生産性が落ちたり、害虫や新たな病気が増えたり、さび病、炭疽病が頻繁に起きたりしています。その結果、コーヒーの生産量と質が低下しており、品質の良いコーヒーを得るために、より時間と資源が必要になりました。
こうした課題を解決するためには、生産工程を革新し生産性を上げることが必要です。また気候変動への適応力、回復力を上げるための代替手段を探して実行したり、パートナーとなってくれる協同組合と組んで、組織的に起業家的な能力を強化したりする必要もあります。投資のためには資金の管理も必要で、組合の枠を超えた専門機関とも戦略的パートナーシップを組んで農業、気候変動への知識を深め対策をしていく必要があり、私たちだけでなく、みんなで取り組むことが必要です。
環境の変化にどう適応するかに注目し、生産性と質を確保するために活動を検討しています。コーヒーの木の植え替えや人材育成と支援、トレーサビリティ、農家の収入管理、アグロエコロジーの実践、オーガニックの堆肥づくり、実証を行うための圃場を50 箇所設置することなどを通じて、実際にどうしたら生産性が上がるか農家に見てもらっています。また気候変動により予測不可能な状態にある中で、早期アラート計画といって、雨が多い時期の予測やどういうことをしたらいいかなど、前もって対策できるための計画を行っています。
また能力強化の面では、男女5471 人に研修を行っており、技術支援をし、品質の面についても学んでもらっています。インフラの設備投資については、プレミアムを使ったり、政府の資金、組合自身の資金を運用したりしています。
生産者のトレーニングやインフラ投資などの取組みはフェアトレード・プレミアム無しではできません。フェアトレード認証を受け、その中で活動できているおかげで実行できるのです。フェアトレードは「生き方」そのものということを伝えたいです。
第二部:パネルディスカッション
潮崎:まずシルビアにお聞きします。企業との連携の事例として良かったものや、インパクトについて教えてください。
シルビア:品質と生産性を繋げて取り組んできました。フェアトレードに関わってくれるお客様からの意思で投資をしていただいています。投資の目的は事業のサステナビリティですが、最終的には小規模生産者の生活、そして農業活動のサステナビリティにつながっていきます。
潮崎:パウロへの質問です。この10 年でコーヒーの品質の面でどのように変わったのでしょうか?
パウロ:コーヒー自体の品質も一般的にここ10 年で変わってきていますが、特にフェアトレードコーヒーはこの10 年で大きく変わりました。小規模農家によるポストハーベストの処理工程もしっかり開発されてきたという背景もあります。
昔はフェアトレードコーヒーは品質が悪いと捉えられていました。生産者も質が悪いものをフェアトレード商品として出荷し、価格が期待できるものを別のマーケットで売っていました。しかし意識変革を行い、フェアトレードも品質を重視しなければならないという認識に変え、取り組んできました。
例えば、10 年前のゴールデンカップの導入などでコーヒーの質への意識が変えられたことがあります。当初のスコアは84~85 点だったのが、現在では90 点を上回るスコアが出るようになりました。
潮崎:メルリンへの質問です。ロースター、商社、メーカーなど日本の企業に期待することは何ですか?
メルリン:私ども生産者組織、組合として日本の市場に求めることは昔から一貫しています。フェアトレードコーヒーはサステナブルであり、生産者が成長できるという認識を持ってもらいたいです。コーヒー生産の11%が現在フェアトレードですが、もっとフェアトレードを増やせる余地が残っています。
会場より:生産されているフェアトレードコーヒーのうち、フェアトレードとして取引されているのは全体の3割しかありません。それは品質が満たないからなのか、もしくは需要が少ないからでしょうか?それとも全体的にコーヒー価格が高くなり、フェアトレードではなく別のところで売られてしまっているからなのでしょうか?
パウロ:市場価格は確かに高いですが、フェアトレードとしての取引割合が低いことについては、昔から市場価格とは別の動きをしており、市場に引っ張られることはありません。どちらかというと需要がまだまだ十分に出てきていないということが原因です。消費者が、フェアトレード認証ラベルの製品を認識しても、それよりも他のコーヒーを買ってしまう行動があります。生産者、特に小規模生産者にとっては、フェアトレードは大きな価値を持っています。収入を期待して、さまざまなプロジェクトの資金として取り組んでいます。ぜひ需要を伸ばしたいと考えています。
メルリン:フェアトレードがどういうものなのか、どのような意味でサステナブルな取り組みなのかを説明していくと、それに応じて需要も伸びていくと考えます。コーヒー業界、そして各国の取り組みと手を組んで、フェアトレードというのは、生産者にとっても、消費者にとっても付加価値があるものという認識を持ってもらいたいです。
クロージング挨拶
潮崎 真惟子(認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン 事務局長)
品質の追求、サステナビリティ、両側面をやっていくことが重要ということで、今回のセミナーではさまざまな取り組みを各生産者組合からご紹介いただきました。いろいろなキーワードが出た中でも印象的だったのは、専門家や外部と取り組むことで新しいことができる、また実験しながら改善していくこと。そしてアントレプレナーシップ、起業家マインドを生産者自身が持っていくなど、現場での工夫が巻き起こっていることを感じてもらいたいといったことでした。
フェアトレードはかつて企業の間で品質への不安が大きかったのですが、今は変わってきており、世界中で美味しいコーヒーとして売れている中で、今後はより日本のマーケットを伸ばしていきたいです。
本日はありがとうございました。